冬も終わりに近づき
冬も終わりに近づき、もうそろそろ桜の季節という頃。琴美は、スプリングコートを着て、出かけようとしている。中学生の弟、秀人がうらやましそうにそれを見ている。
「いいよなー、ねーちゃん、行くとこあって」
「子供はおうちで過ごしてなさい」
琴美はそう言って、出かけて行ってしまった。
両親は居間でテレビを見ている。秀人は、小学生の弟、和人と窓辺のダイニングでぼんやりしている。公園でサッカーしても和人は全然相手にならなかったし、私立の中学に通っている。
秀人は、近所に友達があまりいない。秀人は、出窓に飾ってある飾り花の後ろにある、まりもの入ったビンを見つける。いつも琴美の部屋にあるのだが、今日は日が当たる出窓に置いていったようだ。秀人はビンを開けると、三つあるまりもの中から、直径3センチくらいのものを取り出し、テーブルの上に置く。
和人は無邪気に甲高い声でたずねる。
「それ、お姉ちゃんのじゃないの?」
秀人はうなずくと、まりもを転がす。
「三つもあるんだ、一つくらいなくなってもわかんないよ」
「わかると思うけどな・・・それに、何するの、それで?」
秀人はまりもを人指し指と親指でつまみ、窓の光にかざす。
「なぁ、和人、これ、何に見える?」
和人、じっとまりもを見つめる。
「・・・緑の・・・丸いの」
「そうだ、その通りだ。けどさ、他にこんなもの見たことないか?」
秀人、和人にまりもを近づける。
和人、困った顔をしてまりもを見つめる。
「・・・なんかね」
「うん、うん」
期待顔の秀人。
和人はモジモジする。
「笑わないでね」
「うん、うん」
和人は小声でつぶやいた。
「・・・地球に見える」
秀人はおちゃらけた口笛をならす。
「さすがは和人! そう言ってくれると思ったよ」
和人、ちょっとムッとしながら、神妙な顔をする。
「・・・で、それで何をするの?」
秀人、悪そうにニヤリと笑うと、ポケットから十円玉を取り出す。
「地球崩壊」
秀人、まりもをテーブルに置くと、十円玉で割ろうとする。まりもは、まず凹んで、中から水が滲みだす。薄い緑色の水。和人、顔をしがめている。まりもは半分くらいの大きさになるくらいまで凹んだところで、ぐにゃりと割れる。秀人、割れたまりもの中をのぞく。
「中は空洞だって聞いたことあるけど、これは小石が入ってる」
ずっと嫌そうな顔をしている和人はつぶやく。
「・・・地球が壊れちゃった・・・」
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